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東京地方裁判所 平成6年(ワ)9261号 判決

原告

破産者田中國重破産管財人

相場中行

被告

東芝総合ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

田中敬二

右訴訟代理人弁護士

時國康夫

萩原克虎

衞本豊樹

主文

一  被告は、原告に対し、別紙ゴルフ会員権目録記載の各ゴルフ会員権証書及び右各会員権証書付属書類を引き渡せ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は第二項を除き仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  被告は原告に対し、平成六年二月一九日から右各ゴルフ会員権証書及び右各会員権証書付属書類の引渡済みまで一日あたり一〇二七円の割合による金員を支払え。

3  主文第三項と同旨

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  ゴルフ会員権の帰属

別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件各会員権」という。)は、もと田中國重(以下「破産者」という。)がこれを保有していたところ、同人は、平成六年二月八日午後二時、当庁において破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任された。

2  ゴルフ会員権証書等の占有

本件各会員権の預託金証書並びに名義書換承認申請書及び会員脱退届等の付属書類(以下「本件証書等」という。)は、破産者が所有し、右破産宣告により破産財団に帰属したところ、被告はこれを占有している。

3  不法行為

原告は、本件各会員権を換価処分するには、本件証書等が必要であるので、平成六年二月一九日、被告に対し、本件証書等の引渡を請求したが、被告はその引渡を拒絶したため、原告は、本件各会員権を換価処分することができない。

本件会員権の価格は、合計金七五〇万円を下らないところ、原告は、被告の不法行為により、本件各会員権の換価処分権を侵害され、本件証書等の引渡があるまで右時価に対する民法所定年五分の割合による遅延損害金に相当する一日あたり金一〇二七円(円未満切り捨て。)の損害を被った。

よって、原告は被告に対し、所有権に基づき本件証書等の引渡を、並びに、不法行為による損害賠償請求権に基づき引渡請求の日である平成六年二月一九日から本件証書等の引渡済みまで一日あたり一〇二七円の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実及び2の事実のうち、被告が本件証書等を占有していることは認め、その余の事実は否認する。

2  同3の事実は否認する。

三  抗弁

1  譲渡担保設定

(一) 被告は、昭和六三年九月二八日、破産者との間において、極度額を八〇〇万円とするゴルフ会員権担保極度貸付契約を締結し、同日破産者に対し、八〇〇万円を貸し付け、その担保として、本件会員権のうち東ノ宮カントリークラブの会員権の譲渡を受けた。

(二) 被告は、平成元年八月一四日、破産者との間において、右極度額を一〇五〇万円に変更するとともに、同日破産者に対し金二五〇万円を貸し付け、追加担保として、本件会員権のうちサンメンバーズカントリークラブの会員権の譲渡を受けた。

(三) 被告は、平成二年三月一日、破産者との間において、右極度額を一五〇〇万円に変更するとともに、同日破産者に対し金四五〇万円を貸し付け、追加担保として、本件会員権のうち諏訪レイクヒルカントリークラブ及びバークレイゴルフクラブの各会員権の譲渡を受けた(以下、右貸金を「本件貸金」といい、本件各会員権の譲渡担保を「本件譲渡担保契約」という。)。

なお、本件譲渡担保契約において、担保の提供したゴルフ会員権の価格が低落し、担保価値に著しい不足が生じたと認められるときは、破産者は被告の請求があり次第、増担保を提供すること、破産者が右増担保の請求に応じないとき、利息の支払を遅延したとき、破産者の資産信用状態が悪化し又はそのおそれがあると認められるときは、破産者は本件貸金の期限の利益を喪失し、被告は、任意に本件各会員権を売却処分若しくは被告に帰属させ、本件貸金債務の弁済に充当することができる旨の約定がある。

(四) 被告は、平成五年三月三一日、本件貸金の残元本一五〇〇万円の内金二八八万円の弁済を受けて融資極度額を一二一二万円に縮小し、同年四月九日、右サンメンバーズカントリークラブ会員権を破産者と合意の上売却し、右売却代金九六万円を残元本に充当したので、同時点での残元本は一一一六万円となった。

2  対抗要件具備

破産者は、後記のとおり、本件貸金につき期限の利益を喪失したので、被告は、平成六年一月三一日、東ノ宮カントリークラブを経営する東宮開発株式会社に対し、同年二月二日、諏訪レイクヒルカントリークラブを経営する株式会社グリーンライフ及びバークレイカントリークラブを経営するサンレックス株式会社に対し、破産者からあらかじめ交付を受けていた債権譲渡通知書をそれぞれ内容証明郵便により発送し、右各通知書はそのころ各ゴルフ場経営会社に到達した(以下「本件各通知」という。)。

四  抗弁に対する認否

抗弁1(一)ないし(四)及び同2の事実は認める。

五  再抗弁

1  破産者の支払停止

破産者は、ユニマック株式会社(以下「ユニマック」という。)の代表取締役であり、ユニマックの金融機関に対する借入金債務約一億円について連帯保証債務を負っていた。ユニマックは、平成五年一一月ころから資金繰りに極度の困難を来し、事実上支払不能の状態にあったが、特殊な債権者が関与するようになったので、破産者は同年一二月中旬以降、広島県の実家や京都の兄宅を転々として所在を隠し、ユニマックの破産申立の準備を行った。ユニマックは、破産者が平成六年一月一一日、債務超過を原因として準自己破産の申立をしたことにより、金融機関に対する債務の全額につき期限の利益を喪失し、同時に破産者の金融機関に対する連帯保証債務について期限が到来し、破産者も、同日、支払不能に陥った。ユニマックは、同月二〇日、破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任された。

破産者は、ユニマックに対する破産宣告決定がなされた後は、自己破産宣告の申立準備に取り掛かり、前記のとおり、同年二月八日破産宣告を受けた。

2  被告の悪意

被告は、本件各通知の際に、破産者が支払不能にあることを知っていた。すなわち、被告は、破産者が平成五年一二月ころから所在不明となっていたことを知っており、ユニマックに対する破産宣告の前後には破産者宅を数回に渡り訪問していた。被告は、平成六年一月二八日、原告に電話で破産者の状況を尋ねたので、原告は右1の状況を説明するとともに、自己破産の申立準備中と思われる旨回答した。また、ユニマックが破産したことは、同日付の信用情報誌に公告された。

なお、被告は、同年二月八日原告と面談した際に、ユニマックに対する破産宣告がされたことを知って本件各通知を行ったことを認めており、破産管財人が第三者的性格を有することを争って譲渡担保の有効性を主張していたものである。

3  対抗要件取得の否認

(一) 否認の意思表示

破産法(以下「法」という。)七二条二号、七四条の支払停止には支払不能をも含むものと解すべきであるところ、原告は、平成六年六月一日被告に送達された訴状により、同条に基づき、被告による対抗要件の取得を否認する旨の意思表示をした。

(二) 権利移転の効果発生時期について

権利移転の日から、一五日以内に対抗要件を取得すれば法七四条に基づく否認はできないと解されているが、本件譲渡担保契約において、ゴルフ会員権譲渡担保証書には債務者である破産者はゴルフ会員権を譲渡すると明確に規定している。被告は、予め破産者から徴した書面により、いつでも右譲渡通知をなしうる立場にあるにもかかわらず、単に、直ちに通知をすると破産者がゴルフ場経営会社からゴルフ場使用を拒絶される可能性が高いという極めて実務的かつ事実上の理由から、譲渡通知を任意に留保していただけである。したがって、譲渡担保契約時に権利移転の効果は発生していたものであり、通知を留保しておいたことを根拠に権利移転の効果が契約時に発生していないとすることはできず、同年一月三一日以降になされた本件各通知は、いずれも権利移転の時点から一五日を経過した後になされたものである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実の内、破産者がユニマックの代表取締役であったこと、ユニマックについて原告主張の日時に破産申立及び破産宣告がされたこと、破産者について原告主張の日時に破産宣告がされたこと、原告がユニマック及び破産者の破産管財人にそれぞれ選任されたことは認め、その余の事実は不知。

2  同2の事実の内、ユニマック破産の事実が平成六年一月二八日付の信用情報誌に公告されたこと、被告が原告と面談した際に、ユニマックに対する破産宣告がなされたことを知って本件各通知を行ったと認めたこと、破産管財人の第三者性を問題にしたことは認め、その余の事実は否認する。被告が右信用情報誌によりユニマックが破産したことを知ったのは、同月三一日であり、被告は破産管財人の第三者性の点からのみ譲渡担保の有効性を主張したものではない。

3  同3(一)のうち、原告が否認の意思表示をしたことは認め、その余の主張は争う。同3(二)の事実は否認する。

4  被告の対抗要件具備は否認事由に当たらない。

(一) ゴルフ会員権担保極度貸付契約の締結

本件ゴルフ会員権担保極度貸付契約(ゴルフ会員権リボルビングローン)は、金銭貸付を受ける者は、一ないし数通のゴルフ会員権を根担保として提供する一方で、右会員権の価格評価に応じ設定された限度額までの範囲で金銭貸付を受けることができ、履行期到来までの間ならば一部または全部の借入金を返済しても更に限度額までの貸付を受けることができるというものである。そして、被告がゴルフ会員権担保極度貸付契約を締結する際には、ゴルフ会員権譲渡担保証書(リボ用)を作成し、債務者兼担保提供者は、それぞれ日付白地の、届出印による譲渡裏書をした会員権についての預託金証書、譲渡欄白地の名義書換承認申請書、会員脱退届、債権譲渡通知書及び印鑑証明等、会員権譲渡に必要な書類を被告に提供し、その後も約定の利息支払日までに印鑑証明(発行後一か月以内)を被告に差し入れることとされている。

(二) 権利移転の効果発生時期について

被告は、本件譲渡担保契約において、破産者が期限の利益を喪失することを条件に、会員権の権利移転が生じる旨の約定をした。すなわち、被告が行うゴルフ会員権担保極度貸付は、債務者(ゴルフ会員権の名義人)が、会員権を担保として提供した後も、年会費納入等の業務を負担して、ゴルフ場の利用ができることを特色としており、被告は、この利点を右貸付のセールスポイントとしている。そのため、被告は、日付欄空欄のゴルフ会員権譲渡通知書を預かるだけでこれをゴルフ場に即時に発送することはしていない。したがって、被告は、右段階で当該ゴルフ会員権を差し押さえる者があった場合、民事執行法三八条の第三者異議の訴えを提起することができないものであり、当該ゴルフ会員権は、譲渡担保権の権利実行までの間は従前同様その名義人に属している。債務者が債務不履行等により期限の利益を失うと、被告は債権額を確定し、同時に債務者に対する通知を要せずして残債務に見合う価値のゴルフ会員権を選択して、これによって右会員権が被告に移転する効果が発生し、同時にその対抗要件具備のため預かっていた譲渡通知書に日付を入れ、ゴルフクラブに送付するのである。

(三) 被告は、平成五年六月ころから破産者に対し、本件各会員権の価格が低下して残債務に対する担保価値に著しく不足を生じたため、追加担保又は増担保の提供を要求していたところ、平成六年一月二八日、破産者所有のマンション(以下「本件マンション」という。)の不動産登記簿謄本の調査をして、右不動産に担保価値がほとんどないことを知った。更に被告担当者斎藤隆敏(以下「被告担当者斎藤」という。)は、その直後の同月三一日、信用情報誌の記事からユニマックが破産したことを知り、ユニマックに赴いて破産者に会おうとしたが、同社は閉鎖されて会えず、連絡もとれなくなったため、破産者は、同日、前記約定により、期限の利益を失い債務額が確定した。

したがって、本件各会員権の権利移転の効果は、同日発生したものであり、本件各通知は、その一五日以内になされているから、否認の対象とならない。

(四) かりに、右権利移転の効果が譲渡担保設定の日に生じたとしても、被告は、破産者の支払停止又は破産申立の事実を知らないで対抗要件を具備したものである。

第三  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1及び同2のうち被告が本件証書等を占有しているころ並びに抗弁1(一)ないし(四)及び同2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、再抗弁について検討することとする。

1  否認の意思表示

原告が平成六年六月一日被告に送達された訴状により、法七二条二号、七四条に基づき、被告による本件各会員権についての対抗要件取得を否認する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。

2  支払の停止及び被告の悪意

(一)  破産者がユニマックの代表取締役であったこと、破産者はユニマックについて平成六年一月一一日に取締役として準自己破産の申立をし、同月二〇日に破産宣告がされたこと、破産者について同年二月八日、破産宣告がされたこと、原告がユニマック及び破産者の破産管財人にそれぞれ選任されたこと、ユニマック破産の事実が平成六年一月二八日付の信用情報誌に公告され、被告もこれを見たこと、被告が平成六年一月三一日から同年二月二日にかけて本件各通知をしたこと、被告が原告と面談した際に、ユニマックに対する破産宣告がなされたことを知って本件各通知を行ったと認めたことは、当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実及び証拠(甲三、六、七、九、一〇、乙一の1〜6、三、五の1〜3、六〜八、証人久保田重博)によると、次の事実が認められる。

(1) 破産者は、昭和六〇年三月、教育用カセット用のダビング加工販売を業とするユニマック(当時の商号・東京相本科学株式会社)を設立し、同社の代表取締役に就任した。ユニマックは資本金一〇〇〇万円、従業員一七名、株式の譲渡には取締役会の承認が必要との定めがある会社である。破産者は、ユニマックに担保となる資産がなかったため、自己の所有する不動産やゴルフ会員権を担保に借入をして、会社の運転資金にあてていたほか、右借入の連帯保証人になっていた。破産者は、昭和五九年三月二三日購入した本件マンションに、同年五月二八日付で住宅金融公庫及び信用保証サービス株式会社に対し、債務者をいずれも破産者、債権額をそれぞれ一二一〇万円、五〇〇万円とする抵当権の、昭和六二年三月一六日付で株式会社富士銀行に対し、債務者をユニマック、極度額を一五〇〇万円とする根抵当権の、昭和六三年六月二九日付で株式会社富士銀クレジット及び株式会社富士銀行に対し、債務者をそれぞれ破産者、ユニマック、極度額をそれぞれ一三二〇万円、二〇〇〇万円とする根抵当権の設定をしている。

ユニマックは、平成五年二月期には既に一億円以上の債務超過にあったと推測され、その後も無理な資金繰りを続けていたが、平成六年一月一一日、破産者が準自己破産の申立を行ったことにより、その借入金について期限の利益を喪失した。これにより、破産者の負担する多額の連帯保証債務についても期限が到来し、破産者は支払不能の状態に陥った。ユニマックの負債総額は約二億三四〇〇万円、破産者の負債総額は約一億七六一七万円であり、破産者には自宅として居住していた本件マンション及び本件ゴルフ会員権以外に特に財産はない。

(2) 破産者は、平成五年一二月末から会社の印鑑及び帳簿等を持って所在を隠した。そして、破産者は、平成六年一月、家族を広島の実家に返し、同月一〇日、主要取引金融機関であった城南信用金庫から預金をほぼ全て引き出す等して、ユニマック及び破産者個人名義の口座残高をほぼ零にし、東京都多摩市の自宅に戻ったのは平成六年二月八日以降であった。

(3) 本件ゴルフ会員権担保極度貸付契約では、利息は偶数月の六日に前月一五日までの分を支払う約定になっており、また、毎利息支払日までに発行後一か月以内の印鑑証明書を差し入れる約定になっていた。破産者は、平成五年一二月六日支払分までは遅滞なく利息の支払をし、印鑑証明書についても、平成五年中は二月三日、六月一日、八月二六日、一〇月六日及び一二月二日にそれぞれ差し入れた。しかし、破産者は、平成六年二月六日支払期限の利息を支払わなかった。

(4) 被告とユニマックとの間には直接取引はなかったが、被告は、破産者がユニマックの代表取締役であることは知っており、また、ユニマックの取締役で破産者と共同してユニマックの設立にあたった水島秋治(以下「水島」という。)に対しても、ゴルフ会員権を担保にして平成五年当時で一一八〇万円の貸金債権を有していた。水島は、平成五年一〇月、資金不足を理由に金三九万一八一六円の利息の支払をしていない。被告担当者斎藤は、平成六年一月二八日、破産者所有の本件マンションの登記簿を調査し、同月三一日には信用情報誌からユニマックが破産宣告を受けたことを知り、同日同社及び水島宅を、翌日、破産者宅をそれぞれ訪問した。ユニマックは閉鎖され、破産した旨の張り紙が掲示されており、破産者宅及び水島宅はいずれも本人及び家族ともに不在であったので、被告担当者斎藤は連絡を要求する手紙を残してきたが、破産者に対し破産宣告がされるまでの間、連絡はなかった。

(三)  ところで、法七四条一項の「支払停止」とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解すべきものであるところ(最高裁昭和六〇年二月一四日第一小法廷判決・判例時報一一四九号一五九頁参照)、右認定の事実によれば、ユニマックは破産者の個人会社というべき会社であり、破産者は、自己の個人資産をすべてユニマックのために提供して、その資金を調達していたが、ユニマックの経営破綻に伴い、破産者も平成六年一月一一日には支払不能の状態に陥り、債権者の追及を避けるため行方を隠し、同月三一日にはユニマックの事務所を閉鎖していたのであるから、破産者は、遅くとも同日までに、債務の支払をすることができないことを黙示的に外部に表示し、支払を停止したものというべきである。そして、被告は、同日には右状態を覚知していたのであるから、被告は、本件各通知を行った際、破産者の黙示の支払停止の事実について悪意であったと推認される。

これに対し、被告は、被告とユニマックとの間に直接の取引はなく、その経営状態は把握していなかったし、会社が破産したからといってその代表者個人も破産するとは限らないこと、また、本件各通知は、平成六年一月二八日に本件マンションの登記簿謄本を調査した結果、全く担保価値がないことが判明したため、本件貸金契約について追加担保が差し入れられる見込みがないと判断して行ったものであり、ユニマック破産の事実を知る前に決定していたものと主張し、証人久保田重博作成の陳述書(乙一〇)及び同人の証言中に右主張に沿う部分がある。しかし、ユニマツクは前記認定のとおりの小規模な閉鎖会社であり、かつ、本件マンションの登記簿謄本から破産者がユニマックの債務について物上保証していることが明らかに認められるのであるから、破産者がユニマックの債務について連帯保証していることは、被告のような金融業者であれば当然に知るところであるといえる。更に、破産者のみでなく水島に対してもゴルフ会員権を担保に融資をしていた被告は、ユニマックの経営状態に重大な関心を寄せていたと思われるところ、本件マンションに設定された抵当権は、いずれも本件譲渡担保契約設定以前に設定されたものであることが明らかで、平成六年一月二八日の時点になって本件各通知を行わなければならない理由としては不十分であり、また、右同日に本件各通知をすることを決定しておきながら、現実に通知をなしたのは同月三一日以降になったことについても何ら合理的な説明はなされていない。したがって、証人久保田重博の供述は、採用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3  対抗要件の否認

(一)  いわゆる預託金会員組織のゴルフ会員権は、ゴルフクラブの定款その他の規則において譲渡できると定められている場合、ゴルフクラブの承認を条件として、会員が入会に際してゴルフ場を経営する会社に預託した入会保証金若しくは預託金の返還請求権とともに譲渡することができ、その対抗要件は、民法所定の指名債権譲渡の場合と同様の方法によるものと解すべきであり、債務を担保するため右会員権を譲渡した場合も、同様に解すべきものである(最高裁昭和五〇年七月二五日第三小法廷判決・民集二九巻六号一一四七頁参照。なお、弁論の全趣旨によれば、本件各会員権も右預託金会員組織のゴルフ会員権であると認められる。)。被告が、平成六年一月三一日、東ノ宮カントリークラブを経営する東宮開発株式会社に対し、同年二月二日、諏訪レイクヒルカントリークラブを経営する株式会社グリーンライフ及びバークレイカントリークラブを経営するサンレックス株式会社に対し、確定日付のある書面により通知をしたことは当事者間に争いがないところ、法七四条一項は、支払の停止または破産の申立があったのちに対抗要件を充足する行為がなされた場合において、その行為が権利の設定、移転または変更のあった日から一五日を経過したのちに悪意でなされたものであるときは、これを否認することができる旨定めるが、右一五日の期間は、権利移転の原因たる行為がなされた日からではなく、当事者間における権利移転の効果を生じた日から起算すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和四八年四月六日第二小法廷判決・民集二七巻三号四八三頁)。

(二)  そこで、本件譲渡担保契約における権利移転の時期について検討することとする。

(1) 証拠(乙一の1〜6、二の1〜3)によれば、被告と破産者との本件譲渡担保契約は、「ゴルフ会員権担保極度貸付契約書」及び「ゴルフ会員権譲渡担保証書(リボ用)」の契約書により締結されているが、右契約書においては、次のとおりの条項がある。

① 破産者は、被告とのリボルビングローン借入契約に基づきその極度額内で被告から借り入れた貸金債務のすべてを担保するため、被告に対し、破産者所有のゴルフ会員権を譲渡し、日付白地の届出印による譲渡裏書をした会員権について本件証書等(名義変更に実印が必要な場合は印鑑証明)を添付して交付する(契約書九条一項、二項、保証書一条、二条)

② 破産者は、ひきつづき加入ゴルフ場を利用することができるが、年会費等の納入は破産者の負担において行う。破産者は、本件会員権を他に処分し、若しくはその預託金返還請求権を行使しない(保証書三条)。

③ 本件会員権の価格の低落、ゴルフ場会社の倒産その他の事由により、その担保価値に著しい不足を生じたと認められる場合、破産者は、被告の請求により、いつでも代担保又は増担保を提供する(同四条一項)。

④ 破産者が、利息の支払を遅滞したとき、資産、信用状態は悪化しそのおそれがあると認められるときは当然に、破産者が契約に基づく債務の一部でも履行を遅延したとき、破産者が契約条項の一つでも違反したときは、被告の請求により、すべての債務につき期限の利益を喪失する(契約書一〇条)。

破産者が被告に対する債務を期限に履行しない場合には、被告は、破産者に事前に知らせることなく、本件会員権を一般に適当と認められる方法、期間、価格等で他に処分し、または、本件会員権を一般に適当と認められる時期、価格で評価して被告名義とし、その処分代金もしくは評価金額をもって、法定の順序にかかわらず、債務の弁済に充当することができる(契約書九条三項、保証書五条一項)。被告は、右方法によるほか、任意の方法により預託金の返還を受け、その返還金をもって法定の順序にかかわらず、債務の弁済に充当することができる(保証書五条二項)。

破産者は、右の名義変更若しくは預託金の返還について、被告に協力する(同六条)。

(2)  右認定の事実によれば、本件譲渡担保契約においては、譲渡担保契約締結時、すなわち権利移転の原因たる行為と同時に、権利移転の効果が生じ、被告は、破産者に期限の利益喪失に当たる事由が発生した場合、会員権を処分する権能を取得し、これに基づいて、会員権を相当の価格で他に処分し若しくは適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめることによって、これを換価処分することができる旨、また、破産者は被告に対し、予め会員権譲渡の対抗要件具備のための書類を交付し、かつ、ゴルフクラブの承認を得るための手続に協力することを承諾する旨を定めたものというべきである。

(3) 被告は、本件譲渡担保契約においては、破産者が期限の利益を喪失することを条件として、権利移転の効果が生じるものと約定された旨主張し、その根拠として、ゴルフ会員権を担保とする本件リボルビングローンにおいては、破産者が期限の利益を失って初めて、債務額が確定し、残債務に見合う価値のゴルフ会員権を選択して、その対抗要件具備のため預かっていた債権譲渡通知書に日付を入れ、ゴルフ場経営会社に送付することが可能になるものであること、破産者は、年会費納入等の義務を負う反面、譲渡担保設定後もゴルフ場を利用することができ、被告はゴルフ会員権名義変更のため必要な書類を預かりながらもこれを直ちに行使することはしないこととしており(譲渡担保契約の直後に譲渡の通知を行うとゴルフ場によっては、債務者がプレーできない不都合が生じる)、これを本件ゴルフ会員権ローンのセールスポイントしていること、譲渡通知を行う前に当該ゴルフ会員権を差し押さえる者が出ても、被告は第三者異議の訴えを提起しえないこと等をあげる。そして、証拠(乙九の1の1及び2、九の2〜5、一〇、証人久保田)によれば、被告は、本件ゴルフ会員権担保ローンを、借主が担保を設定してもゴルフ場を従前通り利用できるとして広告していること、被告は、本件譲渡担保契約締結時に本件各会員権に関して、破産者から署名捺印した譲渡通知書及び届出印による譲渡裏書をした預託金証書のほか本件証書等をそれぞれ日付白地で交付を受けたが、直ちに譲渡通知書を送付しなかったこと、これは、顧客である譲渡担保設定者はゴルフ会員権を譲渡担保に供したことをゴルフ場に知られたくないという要望があり、他方、通知を受けたゴルフ場は、特に対応をとらないものもあれば、会員資格を剥奪するところもあるとの理由によるもので、一般にゴルフ会員権を担保にした融資の場合においては同様の扱いがとられていることが認められる。

しかしながら、本件のような極度額を設定して行われるゴルフ会員権担保融資においては、担保に提供されたゴルフ会員権はすでに特定されており、被担保債権の残額が確定しなければ、右ゴルフ会員権の権利移転についての対抗要件を具備することができないものではなく、どのゴルフ会員権について担保権を実行するかはその実行の段階において判断すれば足りるのであるし、債務者が会員権につき譲渡担保を設定した後においても、その利用や年会費の納入等を継続する旨の約定があったとしても、ゴルフクラブの承認を得ていない以上、債務者がゴルフクラブとの間において、会員としての権利義務を履行できるのであるから、被告との間で右約定があることは、本件譲渡担保契約時に、会員権について、ゴルフクラブの承認を条件とする権利移転の効果が発生すると解することの妨げとはならない(不動産又は動産の譲渡担保設定者が譲渡担保設定後にもその使用を継続することが通常であることと径庭はない。)。また、ゴルフ会員権の譲渡担保契約の直後に対抗要件を備えることにより前示のとおりの不都合が生じることがあるとしても、前示各契約書の記載によれば、当事者間で権利移転の時期を遅らせる合意の存在を窺わせる規定はなんら存在しないのみならず、被告のいう不都合が生じることについて、これが一般に知れ渡っているとまで認めるに足る証拠もないのであるから、かかる事情により右規定の趣旨が変容されたと認めることはできないものというべきである(債権に関する権利移転の公示は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によってそれが第三者に表示されうるものであることを根幹として成立しているものであるから、もし、被告が右合意が認められないとすると、本件のようなゴルフ会員権を担保とする融資制度の存続自体に関わると危惧するのであれば、少なくともこれを契約書に明定しておくべきであり、「会員権を担保のため譲渡する」とのみ規定しておきながら、第三者には窺うことが困難な事情によって、権利移転の効力を自己に有利なように解することになる合意の存在を認めることは、何ら公示を伴わないで強力な担保権を容認するに等しい結果となって不当である。)。被告は、譲渡通知を行う前に当該ゴルフ会員権を差し押さえる者が出ても、第三者異議の訴えを提起することができないが、このことは、以上の当然の結果であり、なんら権利移転の効果の時期に関する右判断を左右しない。

したがって、本件会員権の権利移転の効果は、東ノ宮カントリークラブが昭和六三年九月二八日、諏訪レイクヒルカントリークラブ及びバークレイカントリークラブが平成四年三月三一日に生じ、その対抗要件はいずれも平成六年一月三一日から同年二月二日ころに取得されたものであるから、被告は、本件会員権の譲渡をもって原告に対抗することができないものというべきである。

そして、本件証書等は、本件各会員権の債権証書及びこれに準ずる書面であり、債権証書の所有権は債権者に帰属すると解すべきであり、破産者に対する前示破産宣告により、破産財団に帰属するに至ったところ、被告は、本件各会員権の譲渡をもって破産管財人である原告に対抗することができないのであるから、原告との関係では、債権を有しないにもかかわらず、債権証書を占有しているものであり、したがって、被告は原告に対し、本件証書等を引き渡すべきものというべきである。

三  次に、原告は、被告が本件証書等を引き渡さないことにより、本件各会員権の換価処分ができず、換価処分権を侵害されたことにより、本件会員権の時価に対する民法所定年五分の割合による遅延損害金に相当する損害を被った旨主張する。

しかし、本件会員権についての預託金証書等は会員権を表章する有価証券ではなく、会員権移転は、民法所定の指名債権譲渡の場合と同様の方法によるものと解すべきことは前示説示のとおりであるから、本件証書等を所持しないと会員権の処分が事実上困難であるとしても、被告の本件証書等の占有により、法律上本件各会員権そのものの換価処分権まで侵害されているわけではない。したがって、右侵害があることを前提に、その損害賠償を求める原告の請求は理由がないものというべきである。

四  以上のとおり、原告の本訴請求は、被告に対し、本件証書等の引渡を求める請求は理由があるから認容するが、不法行為に基づく損害賠償請求は失当として棄却すべきものである。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官長野益三 裁判官小田正二 裁判官林圭介は、海外出張中につき、署名押印することができない。裁判長裁判官長野益三)

別紙ゴルフ会員権目録

一 諏訪レイクヒルカントリークラブ(個人正会員)

会員番号 NT―九六八

二 バークレイカントリークラブ(個人正会員)

会員番号 一二〇三七九

一 東ノ宮カントリークラブ(個人正会員)

会員番号 一四〇七

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